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【感想】母殺しを誓う少女と、新たな大義を得た男の信念の物語『勇気あるものより散れ 1』感想

『勇気あるものより散れ 1』感想

「モンスターハンター」で、シリーズが出るたびに武器を持ち替える派と、毎回必ず同じ武器を使う人、いますよね?
……相田裕先生はきっと、武器を持ち替えるタイプだな!


身体を改造した殺し屋の少女たちを描いた「GUNSLINGER GIRL」、夢を諦めた少年少女たちの再起が美しい青春ドラマ「1518!」に続いての最新作は、明治維新後の日本を舞台にした剣戟。

元・会津藩士である鬼生田春安は、薩長に敗北した側。死に場所を求めて、大久保利通の暗殺計画に手を貸す。
ところが大久保の護衛についていたのは、街角で出会った女学生っぽい美少女・シノ。彼女の喉元に一閃入れるも、傷がふさがり、銀髪に変化。

不死者という異能力要素も加わっている明治浪漫譚!
「1518!」からの振り幅の大きさ、双剣からガンランスに持ち替えるが如くですな。


春安は「母には長生きしてほしかった」と述懐し、シノは「母殺しを手伝ってほしい」と語りかける。
真逆の心情を語る二人が、同じ目的で行動する。導入からして、感情が揺さぶられる巧みなストーリーテリングで序盤から持っていかれた。

春安は、シノに助太刀することを決めて、こう吠える

「この五年間、どう命を捨てるかばかり考えていたが…使うものだと思い出したわ!」 

自分の命の、新しい使い所を見つけた春安。すべてを失った男の再起に勇気づけられる。

これは、野球に挫折した「1518!」の烏谷公志朗が、再び前を向く光景に通じる。

前を向いてからの春安の生き生きとした言動が、読み手の心をドライブさせて心地いい。


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大久保利通暗殺事件から始まり、母殺しをテーマにした物騒さ。死人も出るし荒事も多い。
しかし作品のテイストは、総じて暗いどころか、むしろ明るく、眩しく映る。

斬り殺した刺客を思い起こして、シノはつぶやく。

「死にゆかんとする貴方たちも美しかった」

死を描くことで、生の美しさを際立たせる。本作の根底にあるのは、命を燃やし尽くす美しさと力強さだ。

相田裕先生の描く女の子の可愛らしさと、血なまぐさい戦闘の掛け合いは「GUNSLINGER GIRL」にも繋がる。
死の中にこそ、生が輝いて見えることを実感させられる。生き様の美しさが胸を打つ快作がここに誕生した。


1巻からサクサク進む展開の速さで、シノ、春安のみならず、春安の仲間である菖蒲、シノのお兄さんや、その眷属も登場。

全員が強い信念を持ち、それぞれが魅力的な人物。彼らの結びつける、一振りの刀「殺生石」。

重厚な物語に胸が躍る。

でも重いだけじゃないんですよ?
異能の少女が、年上の男を眷属にする。男の方は(半)不死者になる……おっさんとしては高田裕三の伝奇ファンタジー『3×3 EYES』を思い出しました。

不死の少女と従者の組み合わせ、年の差カップル感が大好物です! 

なにせシノの体香には催淫効果があって、「私に欲情してはいけませんよ!」と恥じらいながらも一喝するシノの表情にニヤニヤしてしまう。

おっぱい大きくて絶対領域の菖蒲ちゃんも眼福眼福。


僕、時代劇モノは苦手ではないものの、積極的に手に取らないタイプです。
しかし「勇気あるものより散れ」には、まるで抵抗感がないんですよ。

歴史の授業で漫然と知っている大久保利通暗殺事件・戊辰戦争といったワードや、本郷や駿河台など、現在の地理と地続きになっている歴史物の面白さにむしろ、圧倒されて喜んでいる。

これもまた、相田裕マジックなんだろうか。

過去作も含めて、相田裕作品に共通する、信念や生き様。今回もたっぷり味わえそうな1巻です。

勇気あるものより散れ 1

¥715

相田裕

「GUNSLINGER GIRL」の相田裕、最新作!!明治、東京。幕末に死に損ねた武士・春安は、死に場所を求めて大久保利通の暗殺計画に手を出すが「不死」の力を持つ少女・シノに暗殺を阻まれる。母殺しを目指す中で明治政府、不死の兄弟たちが立ちふさがり…!?不死の少女が血を流し命を燃やす、明治浪漫譚!!

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