響け!ユーフォニアム2、ご覧になってましたでしょうか?
アニメで大好きな作品というのは毎クール何本かは巡り会えるものなんですが、一生の特別と思えるほどの作品となるとそうそう頻発するものではありません。ですが2016年は、『君の名は。』と合わせて二本のオールタイムベストアニメに出会えるという幸せな当たり年となりました。
私は『響け!ユーフォニアム』についてはこれまで、熱量と文字数で5話の演奏シーンを語り、はてなブログで吉川優子について語ったんですが、まだ言い足りないのでここでも言わせてください! アニメ観てない人置いてきぼりですいません、最終話までのネタバレあります。
『響け!ユーフォニアム』では一期も二期も「特別」って言葉が本作の重要なキーワードになっていて、大事なキャラやシーンで「特別」という言葉が何度か出てくる。
・特別になりたい麗奈
一番わかりやすいのが高坂麗奈である。「もっと上手くなりたい、特別になりたい」と願う、上昇志向の塊のような女の子。
諦めず、妥協せず、常に上を目指す炎のような灼熱の強ヒロイン! 二期11話で怒ったまま山頂につれていかれた時はマジでビビったぞ。彼女の言う「特別」とは、他人と同じになりたくないという強い願いの象徴である。
「誰かと同じで安心するなんて馬鹿げてる。当たり前に出来上がってる人たちの流れに、抵抗したいの。」
「わたし、特別になりたいの。他のやつらと、同じになりたくない。だから私はトランペットをやってる。特別になるために。」
「第8回おまつりトライアングル」より
麗奈は精神的に大人で、だからこそ身体と心のアンバランスさが際立ってるんですよね。「早く大人になりたい」っていうもどかしい感情は、滝先生と恋愛的に釣り合う歳になりたいっていう願望だけじゃなくて、自分の行動が外見や年齢や高校生という立場で制約されるのが息苦しい。何もかもがじれったいという、行き場のない憤りの現れになっている。
だから気持ちが破裂しそうになって、山頂で「うわーーーっ!」って叫ぶしかない。
トランペットを上手く演奏することで「本物の特別」になれると信じている麗奈は、実際にソロパートを獲得して、部内では特別になれた。でも彼女が特別になれるかどうかはまだ始まったばかり。なにせ高校一年生だ、それに滝先生にとっての「特別」になるには、まだ遠そうですよね、あの告白を見ると。
・特別になれなかった優子
吉川優子は、鎧塚みぞれが傘木希美に嫌われたと思いこんでから一年間、ずっとみぞれに寄り添っていた。それでもみぞれが選んだのは希美だった。
優子「希美には勝てないんだなあ……一年も一緒にいたのに」
寂しそうにポツリとつぶやく優子の表情と声には、みぞれの一番には、特別にはなれなかった寂しさを含んだ陰りが映る。だけど、
夏紀「でもさ、みぞれには、アンタがいて良かったと思うよ」
2期4話「めざめるオーボエ」より
その後は「ひょっとして、なぐさめてくれてる~? ぎゃ~、夏紀が優しくしてくるよ~」とイチャイチャを始めるんですが、そんなトムとジェリーの関係(喩え古っ!)も心地よく、案外優子にとっての「特別」とは、夏紀ではないだろうかと予感してます。
・特別だった麻美子
黄前麻美子は出来の良いお姉ちゃんで、だからこそ母親の期待に沿うべく、優等生を演じてきた。いつも贔屓されていて、家庭内では「特別」な存在だった。しかし、それで麻美子は幸せになったのだろうか。
「あたしね、ずっと自分で決めることを避けてきたの。文句言いながら、ずっとお母さんたちの言う通りにしてきた。
それが頑張ることだって勘違いして、我慢して、親の言う事聞いて、それが大人だって。」
「まあ自慢の娘だったってのは認める。でも、演じることはもう止めることにしたの。高校生なのにわかったフリして、大人のフリして、世の中なんて全部こんなものだって飲み込んで、でもそんなの何の意味もない。後悔も、失敗も、全部自分で受け止めるから自分の道を行きたい!
そう素直に言えばよかった。反対されてもそう言えばよかった。だから今度は間違えない。」
2期10話「ほうかごオブリガード」より
「特別」、英語では「special」。その響きからすごく価値の高いものを感じる言葉だけど、麻美子の「特別」は、彼女を幸せにしなかったという残酷な事実がある。
努力は報われる、ただしそれは本人が望む形とは限らない。というのがユーフォシリーズを書く上で一貫して決めているルールです。北宇治高校以外の学校にもドラマがあり、全ての部員たちが努力している。その結果がどんな形であれ、きっと一生大切にできる何かを得られるんじゃないかなと思います。
— 武田綾乃 (@ayanotakeda) 2016年12月28日
原作者・武田綾乃先生のこの言、まさに麻美子だろう。親の言うことを聞いて努力した結果、やりたいこと(美容師)はやれないままだった。
ただ、その後悔に気づいたきっかけは、久美子が全国大会に出場したのを間近で見た事も大きいと思える。久美子を見ながら、「やりたいことをやればよかった。それは今からでも遅くない」と背中を後押しされた麻美子は、大学卒業を待たずに美容師という、本当にやりたかった道を目指す。
・特別に思われていたあすか
そんな麻美子と同タイプなのが田中あすかだ。優等生で賢くて、頭が良いが故に人生の回答まですぐに見つけてしまう。だから「世の中こんなもんだ」と諦める決断も早い。部内の誰もが「あすかは特別」と言い切っていて、小笠原晴香部長も、
「がっかり、かな。あすかは特別なんかじゃなかった。」
「どうにかしてくれるんじゃないかって、自分でなんとかしちゃうんじゃないかって。でもあすかならって。どこかで特別でいて欲しいって思ってるのかもね。」
一番ひどいのが斎藤葵で、
「あの子もちゃんと人間だったんだね」
って人間扱いすらされてないよ! 特別ってことは、孤高であり、孤独であること。誰にも理解されないし、誰のことも理解していない。だからあすかは徹底的な利己主義者として振る舞う。それが彼女にとっての賢い選択肢だった。
仲良しの三年生・晴香と香織の再三の説得にも応じない あすか。しかし、そんなクレバーで冷徹なあすかの心に唯一響いたのが久美子の説得だった。
「だったらなんだって言うんですか! 先輩は正しいです。部のこともコンクールのことも全部正しい。
でもそんなのはどうでもいいんです、あすか先輩と本番に出たい。わたしが出たいんです。」
「子供で何が悪いんです! 先輩こそなんで大人ぶるんですか、全部わかってるみたいに振る舞って、自分だけが特別だと思いこんで、先輩だってただの高校生なのに!」
「こんなののどこがベストなんですか。先輩、お父さんに演奏聞いてもらいたいんですよね。誰よりも全国行きたいんですよね。それをどうしてなかったことにしちゃうんですか。
我慢して諦めれば丸く収まるなんて、そんなのただの自己満足です、おかしいです!」
2期10話「ほうかごオブリガード」より
「先輩だってただの高校生なのに!」久美子だけが、あすかを特別視してなかった。だからこそ届いた、久美子の言葉。
第二期オープニング曲『サウンドスケープ』のコンセプトは、「届け!」だという。
関連:石原立也×松田彬人×外囿祥一郎 スペシャル座談会に記述あり
やらずに後悔した麻美子を見てきたからこそ、久美子は大粒の涙を流しながら言う。
「待ってるって言ってるのに……諦めないでください。後悔するってわかってる選択肢を、自分から選ばないでください……」
2期10話「ほうかごオブリガード」より
という久美子の心からの叫びは、あすかにようやく届いた。劇中でまったく動じなかったあすかが、ここでようやく涙を流したのだけど、あすかの泣き顔は映さずに、足が震えていることでそれを表現する演出も素晴らしかった。
この時、久美子はあすかにとっての「特別」になったんだと思う。だから最後にノートを渡した、父親との繋がりを示す、大切な宝物を。
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特別になりたかった麗奈、特別になれなかった優子、特別だった麻美子、特別に思われていたあすか。この4人には、ある共通項がありますので、次回さらに詳しく見ていきます。
そして、次のコラムが始まるのです。