前回に続いての『響け!ユーフォニアム』語り。総論1からの続きとなっておりますので、まずは総論1からお読みください。

目次その1:かーずSP : かーずSP的『響け!ユーフォニアム』総論1~「特別」という言葉に込められた、4人の想い~
その2:かーずSP的『響け!ユーフォニアム』総論2~「共感」と「リアル」を追求した青春フィルム~(ここ)
その3:かーずSP : 『響け!ユーフォニアム』の「ここが面白かった!」って言いたいだけのトーク

前回、「特別になりたかった麗奈、特別になれなかった優子、特別だった麻美子、特別に思われていたあすか」4人に注目しましたが、この4人には共通点があります。それは、久美子が苦手な相手だったってことです。

高坂麗奈
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・中学時代のコンクールで「本気で全国行けると思ってたの?」という、悔し泣きしてる麗奈を全力で煽るスタイル……天然の久美子さん、マジぱねぇ。それ以降、高校入学からしばらくの間、ほとんど会話してなかったそうで。
公式では「引力」と称される二人の関係は、一期8話の「おまつりトライアングル」でいったんの完成をみる。

吉川優子
・麗奈と香織のソロパート争いの件で、久美子は優子への苦手意識を持ったままだった。
それを解決したのは、合宿の夜中に腹を割って話し合った時(二期3話)。みぞれと希美の件や、コンクールについてどう思ってるかを話し合う。優子も、麗奈とは違うタイプながらも言いたいことははっきり言う性格で、年下の久美子に対しても軽くみることなく、真摯に答えた。
「今でも香織先輩が吹くべきだ」と言いつつも、麗奈のほうが上手いからソロを吹くべきだとも認めているわけで、

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「コンクールに出る以上、金がいいっていうことなんじゃない、フンッ!」
二期3話「なやめるノクターン」より

久美子は素直じゃない言い方にクスクスと微笑み、この時からはっきりと「優子先輩が好きになった」と原作小説でも書かれている。

黄前麻美子
・久美子は、麻美子がトロンボーンを辞めた時から疎遠になっていった。しかし、この姉妹が再び仲良くなれたのも吹奏楽がきっかけだ。麻美子がようやく夢を本気で追い求めはじめることで久美子への嫉妬心はなくなり、素直に応援できるようになったからこそ、全国大会まで足を運ぶことができた。
自宅では麻美子が家を出ていくことに「寂しくない」とひねくれていた久美子は、電車内のふとした瞬間に、自分の心の奥底に眠る本音に気づいて涙を流す。そんな二人の歩み寄りは、全国大会後に陸橋の上で素直にお互いの気持ちを伝えることでようやく交わることになる。

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久美子「お姉ちゃんがいたからわたし、ユーフォ好きになれたよ。お姉ちゃんがいたから、吹奏楽好きになれたよ。お姉ちゃん、大好き!」
麻美子「あたしも、大好きだよ!」

二期12話「さいごのコンクール」より
しかし、二人の距離は約10メートル近く空いたままで、手を繋いだり、抱きしめ合うことはしない。その理由は明かされないけど、みぞれと希美のようにベタベタ寄り添う関係だけが、仲良しのすべてではないということなのだろう。

田中あすか
・あすかへの苦手意識も、はっきり最終話で語っている。

「わたし、先輩のこと苦手でした。もしかしたら、嫌いだったかもしれません。」
確かに、いちいち髪を触ってきたりする先輩、ウザ!って感じだよね、先輩だから文句も言えないし。でも、あすかへのマイナス感情が明確に変わっていったのは、二期3話のラスト。早朝にあすかが奏でる、その姿とメロディだったのではないかという憶測します。

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モノローグ「その曲はどこか不思議で、暖かくて、寂しくて、幾重にも重なった感情が込められているようだった……」
二期3話「なやめるノクターン」より

その幻想的な音色と光景に惹かれる久美子。本心は絶対に表に出さないあすかだけど、その音色だけがあすかの内面を語っている事が、後に判明する。

■久美子の人間的成長を描いたRPG展開

このように『響け!ユーフォニアム』は、久美子が苦手な相手を次々倒していく(克服していく)RPGだと見ることができる。
序盤で仲間になった麗奈が、終盤に離反するのもRPGあるあるネタですよ。そしてラスボスの田中あすか先輩を、最終回で討伐している。卒業式の雰囲気が「苦手だ」って言ってるあすかへ、

久美子「あ、卒業おめでとうございます」(棒読み)

これほど心のこもってない祝辞もなくて笑えるんですが、今までおもちゃにされてきた、いじられてきた久美子はさらに攻撃を続ける。

久美子「もしかして、嫌いだったかもしれません」

あすかは、他人にかっこ悪い自分を見せない性格だ。あすかにとっては泣くのはかっこ悪いことで、二期10話でも泣き顔を見せなかった。
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なので、ここであすかは大笑いして涙をごまかすんですが、ちょっと上を向いた時の表情が悲しげで、やっぱり言われてショックだったんですよね。
ところがいったん下げてから、持ち上げる久美子。その後は御存知の通りなわけですが、『響け!ユーフォニアム』の最初からこのラストまで一貫して描かれていたのは、久美子の人間的成長である。
高校入学当時から久美子は主体性がなくて、周囲に流される性格だと秀一からも指摘されている。自分の意見が言えない久美子は、麗奈や優子の、はっきり物を言う態度を羨ましく思っていたのではないだろうか。
そんな久美子だからこそ、麻美子の時も、あすかの時も、はっきりと自分の気持ちを伝える事ができた。ようやく気持ちを伝えることができた。

2期オープニング曲『サウンドスケープ』のコンセプトである「届け!」は、作品全体のコンセプトでもあると思う。
みぞれと希美、麗奈の滝先生への恋心も含めて、「本音を相手に伝える、届けること」の大切さや難しさを、この上なく美しく描いた武田綾乃先生と京都アニメーションのスタッフに、大きな感謝を伝えたい。

■青春時代の後悔が共感を生んだ
本音を相手に伝えられないことで後悔したことって、誰でもあると思うんです。
「あの時、ああ言えばよかった」「なんで自分は、何も言えなかったんだろう」
そんな誰もが抱える苦い記憶や経験を『響け!ユーフォニアム』は丁寧に描いているからこそ、大勢の共感を得られたのではないだろうか。

そしてこういう青春ド直球なドラマを、照れることなくやってみせたのがすごいと感じる。

「お姉ちゃん、大好き!」「だって今は、大好きですから」

この台詞だけ抜き出すと、こっ恥ずかしい。見てる方も共感性羞恥を刺激される。だけどそうならないのは、今まで感情をきちんと積み上げてきたからこそ、恥ずかしさを感じずに、感動を与えてくれるのだろう。
個人的な体験で恐縮だけど、私の10代はしらけ世代と言われていた。努力する、必死になるのが格好悪いという風潮に、自分も久美子よろしく流されていたのを思い出す。
なので中学のバドミントン部もそれほど真剣にやってなかったけど、それは後からめちゃくちゃ後悔してる。麻美子のように。こういう苦い思い出とリンクして、感情移入が止まらない要因ではないかと感じる。

■生活感にリアルを出すための弛緩した演技
もう一つの感情移入ができる理由は、リアルさである。リアリティを出している要因としては、圧倒的な背景美術の美麗さや、仲良し四人組(久美子、葉月、サファイア、麗奈)の人間関係が等間隔ではない事など様々あるんですけど、ここでは一例として、久美子の内と外の態度の違いについて述べよう。
久美子って学校でも吹部でも普通に喋るんですけど、家では「あー」とか「うん」とか、生返事ばかりなんですね。
父親と姉が大喧嘩してるのに、スマホいじりながらのこれである。

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「お母さん。お姉ちゃん、本気だと思うよ」
二期8話「かぜひきラプソディー」より

でも誰だって、外で他人と会う時のテンションと、家族といる時のテンションって違うと思うんです。
ところがアニメに限らず漫画でもラノベでも、外での気の張ってる喋りを、そのまま自宅内に持ち込んでる作品が非常に多い
それは無論キャラブレしないためには必要な演出で、書き手(描き手)もわかっているはず。しかし、その記号的解釈からは逃れられていない。
ところが『響け!ユーフォニアム』では、それをやる。やることで、より生活感=リアル感を出している。それでもキャラブレ云々と失敗していないのは、他の作画も演出も声優の演技も徹底的にリアルにこだわっていて不自然さが出ていないからこそ、自宅での弛緩した態度の違いに、違和感を感じることがないからだろう。
ちなみに、久美子の生返事は幼馴染の秀一にも及ぶ。つまり久美子は秀一を恋愛対象よりも家族として見ているわけで、秀一の恋心は、まだまだ近くて遠い距離のままになりそうだ。


共感とリアルさ。この2つを高い次元で成立させた『響け!ユーフォニアム』こそ、ただ「凄く面白かった作品」というだけではなく、私にとっての「一生に残る特別の、オールタイムベストな名作」となった大きな理由だと感じてます。

そして、次のコラムがはじまるのです。

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