「オタク」という言葉も、時代とともに定義は膨らみ、意味は変化していきました。
……が、昔ながらの古いタイプの「オタク」。本が好きで、内気で、社交的とは言えないけれども、特化した興味で、狭く深く一つのジャンルを探求する狭義のオタク。

映画『HELLO WORLD』こそ、そんなオタクに向けて投げられた剛速球。
四十路のおっさんオタク、心に刺さりまくった一本です。




京都に暮らす内気な男子高校生・直実が主人公。自分の意思を表に出せないことがコンプレックス。引っ込み思案な自分を変えるために自己啓発本などに手を出すが、クラスに溶け込めなかったり、流されるように図書委員に選任されてしまったり…。

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「お前は俺か!」と言いたくなる典型的な内向タイプ。この時点で自分とシンクロしてしまうのですが、そこに10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミが突然現れる。

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ナオミの目的は、同級生の美少女・一行瑠璃を直実の彼女にすること。

そう、こういうの! 未来の自分がタイルトラベルしてきて、人生のサポートをしてくれる流れ、オタクが大好物なヤツ!
「ドラゴンナイト4」とか「ノエイン もうひとりの君へ」とか(ネタバレも時効ってことで許してほしい)

そこでナオミが直実に授けたものは、「グッドデザイン」と呼ばれる、物質を生成する右手の能力。オタクの大好物その2,異能力ってやつです。


私が好きなのは、この異能力を使いこなすためには、並々ならぬ努力が必要だってことです。
ナオミを「先生」と呼び、小さな石ころから、だんだん大きな鉄球を創り出すまでに研鑽を重ねる、直実の修行パート。

主流の物語は今、最初から最強のチート能力が当たり前ですけど、昔の物語って、こういう修行シーンがお約束でした。
「ドラゴンボール」の亀仙人、カリン様、界王様、宇宙船の重力装置…。
「ベストキッド」のミヤギ先生のワックスを塗る、ペンキを塗る…ああ、懐かしい!

アニメ漫画ラノベゲームなど莫大な物語が生み出され続けている、コンテンツ大国の日本。物語が先鋭化する中で置いてきてしまったものが、ここには確実にあると感じた次第。




そういった、自分が子供の多感な時期に浴びていた様々な「好き」の要素が、前半のラブコメパートに凝縮されている。

そのラブコメ要素も最高なんだよなあ~。「一行瑠璃さん可愛い」に関しては世界全人類、異論はないんじゃないでしょうか。
数々の京都アニメーションでキャラクターデザインや作監を担当した堀口悠紀子さんの描く、丸みを帯びた美少女の愛らしさが、3D技術で見事に表現されている。

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デジタル作画については、このインタビューが興味深い。

関連:知らなければ気づかない? ‐ 映画『HELLO WORLD』がデジタル作画で描いたもの

セルルック3D、つまり手描きとCGの融合による「2.5次元作画」ともいうべき新時代のアニメ表現は、萌え美少女を違和感なくスクリーンに見せてくれた。

古参オタクの懐かしい要素の数々と、最新の映像技術が合わさった「HELLO WORLD」。
どこかに懐かしさを感じながらも、やっている事は最先端という、温故知新に通じるマインドを感じたよ。それもオリジナル劇場版と言う大舞台で挑戦してくれたのが嬉しい。


……でもここで半分なんです、魅力も、上映時間も。
直実と瑠璃が不幸な事故を回避して、日常系恋愛ストーリーも決着。「イイハナシダナー」……からの二転三転する非日常、非常識、非現実的な事象の数々。

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後半のパートは野崎まど氏、お得意のアレです。どこに着地するのか全く読めない超SF展開。
サイケな模様の原色使いまくりのカラフルなアクションシーンには度肝を抜かされっぱなしで、ずっと息するの忘れてたわ!
この辺、狐面の人物たちが大量に迫ってくる光景が「マトリックス The Matrix」のエージェント・スミスっぽかったりして、やっぱりここでも、中年オタクにビシバシと響くのであった。

それに重力の方向が変わるシーン、堀口悠紀子さんが作画監督をやった「境界の彼方」のクライマックスを思い出して胸アツすぎ。
私が過去に見た、いろんなアニメや映画の「ここが好き!」がこれでもかと盛り込まれている。これまた温故知新ポイントです。

そうそう前半、直実の内向的性格のネタとして、パン売り場が人混みで買えずにねじりパンしか買えないというエピソードがあるんです。
ねじりパン、そのシーンで出てくるの! ってニヤニヤしちゃったよ。前半のさりげない小ネタのフリ、後半のオチの回収になっている、こういうのもオタク心をくすぐるんだ。




前半の青春ものと、後半の派手なアクションもの。ラーメン的に言えばダブルスープ構造。
さきほど温故知新と言いましたけど、「HELLO WORLD」は前世紀から連なる青春ジュブナイルの系譜ですよ。少年が努力と冒険の行く末に少女を救う、王道の物語。

そこを気持ちいいと思える快楽原理は、年齢も、時代も関係ない。たぶん誰でも受け入れられる、原始的な喜びなんだと思う。めでたし、めでたし……

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「この物語は、ラスト1秒でひっくり返る───」

またまた大げさなキャッチコピー使っちゃって! と斜に構えていたら……本当にひっくり返ったよっ!

つまり、そういう事だったの!?

心打たれて余韻に浸っていた頭にガツンときた、最後の1秒(もうちょっと長かったような気がするけど)。

終盤については肝心なことは言えないけど、バーチャル空間であるゲーム内世界と現実空間のリアルを行き来する「ソードアート・オンライン」。アニメの「SAO」を手掛けた伊藤智彦監督が、野崎まど氏の多重構造の物語をこう描くのか、という嬉しい驚きに満ちている。

私がエンタメに求めるものとして、現実では味わえない体験に触れられるという非日常体験への欲求なんですけど、まさにまさに、映画『HELLO WORLD』はそれを叶えてくれるのです。

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直実を手助けするカラスも、二度目に見る時は印象が変わるだろうから、もっかい見に行くことにします。

映画『HELLO WORLD』感想でした。

■追記。謎だった勘解由小路三鈴さんの行動、この小説で語られているそうです(これから読みます)
HELLO WORLD if ――勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする―― (ダッシュエックス文庫DIGITAL)


※いやー、ネタバレせずに魅力を説明することの難しさたるや。